真っ先に向かったのは定番と言うか流れるプールだった。

「うわああ!すごい!シロウ!川みたいにプールが流れている!!」

「あんまりはしゃぐなよイリヤ、焦らなくてもプールは勝手に・・・って!!ちょっと待て!!流れが急激に速くなっているぞ!」

士郎が慌てるのも無理は無い。

台詞の途中から水流が突然早くなりだした。

ほとんど激流並みである。

「こ、これ溺れるわよ!」

「あぷっ!あぷぷっ!」

「サクラ、直ぐに出ましょう!」

「きゃははは!すごいすごい!」

「お、お嬢様!!大変直ぐに助けに参ります」

「セラ慌てない、イリヤすごく楽しそう。それにいざとなればシロウが助けてくれる」

「だからこそです!この機に乗じてどの様なふしだらな魔の手がお嬢様に及ぶ事か」

「はは・・・士郎の信頼度ゼロだな。それにしても一体誰だ?流れが本当に速いぞ」

そんな志貴の呟きに答えるように室内放送が流れた。

『えー、士郎、志貴楽しんどるか〜。只今流水プール大激流タイムを実施中やで〜当社比三倍の速度になっとる〜存分に楽しんどけや〜』

「それならそうと先に言えや!この似非関西弁死徒!」

その瞬間空気が凍てついた。

「・・・言っちまった・・・教授あの台詞だけは言われると・・・本気で、きれるんだよな・・・」

あまりの事後連絡ぶりにきれた士郎の言葉に志貴は士郎以外の全員をプールから避難させ思わず盟友の冥福を祈った。

『あ〜士郎、まだ流れが足りんか?さよか?わーった。ほんなら特別サービス十倍で・・・楽しめやわれ』

思いっきりどすのきいた語尾に重なるように流水プールは地獄と化した。

「うわああああああ!!は、早い!速過ぎ!ぶはっ!コ、コーバック師!!す、すいません・・・でした!お、俺が・・・悪かったです!!がぼがぼがぼ・・・」

謝罪の言葉も虚しく響いた。









溺れる寸前の士郎をアルトリアがどうにか助け出し、士郎の呼吸が戻った所で続いて一堂が向かった先は

「やっぱりここよ!」

今回の改装の最大の目玉であるとされるウォータースライダーだった。

「しかしまた・・・すごいよな」

「本当、教授金に糸目つけずにやったんだな・・・」

呆れた風に呟く志貴と士郎。

そのスライダーは屋内ドームギリギリ(ヘラクレスクラスの身長でも大丈夫であるが)の高さまであり、そこからS字やC字カーブになっていたり、トンネル状になっており、最終的には直線で一気にスピードを上げてプールに突入するというもの。

高度や速度ゆえか、ボードの上に乗って滑ると言うか落ちるようだ。

おまけに、

「・・・ねえ、シオンプールの幅長すぎない?」

「そう言えばそうですね。ほとんど二十五メートルプールと同じ長さですね」

確かにスライダーの下のプールの長さはほとんど二十五メートルのプールと同じ長さがある。

深さは志貴や士郎の膝くらいであるが。

「それ以上に・・・高さ大丈夫か?」

「そこらへんは教授に聞いてみないとなんとも言えん」

そんな二人とは裏腹にすっかりはしゃぐその他の面々。

「ほらほら志貴行こう」

「先輩、行きましょうなんかすごそうですね」

「まあ多分すごいだろうな・・・」

「ああ、そこらあたりは折り紙つきだろう」

どこか達観した口調で志貴と士郎は手を引かれてウォータースライダーの階段を上り始めた。

いざ上がってみるとそこは下から見たそれとは桁違いの迫力だった。

「おい、強度とか大丈夫か?」

思わずそう呟く志貴だったが、

「大丈夫だ。解析してみたが材質に問題ない。それにすべてに強化を施してある。俺達が本気で暴れない限り壊れる心配は皆無だ」

何時の間にか解析していた士郎が断言する。

「お前がそう言うなら安心だな・・・さて、順番だが」

と志貴はスライダーを見る。

コースは二つ。

「まあここは・・・」

「ああ当然・・・」

「お前らが一番先なんだろ?」

二人の語尾を遮る様にセタンタが断言する。

「そうだな、そして私とセタンタ、次に女性陣が良いだろう」

それに続いてヘラクレスも断言する。

「・・・」

「・・・」

考えていた事を先に言われ苦笑したが二人とも覚悟を決めてボディボードの上に乗る。

「よし・・・じゃあ」

「良くか・・・」

同時に躊躇なく一気に滑り始めた。

「うぉおおおおお!!」

「うわああああ!!」

思わず声が上がるほど想像以上に速度が出る。

次々とカーブを曲がり、最後の直線に入り重力に従って一気にプールに着水した。

いや、着水と言うよりは水の上を滑空したと言った方が良いかも知れない。

それでも最後は勢いを失い水の中に沈んでいく。

「ぶはっ!」

「ぷはっ!!」

直ぐに水面から顔を出す。

「これだけ長い理由が良くわかったよ」

「同感」

およそ二十メートル近く水面を滑空した二人はしみじみと呟く。

「それにボディボードの上に乗っていなかったら腹部の皮膚は擦りむけていたぞきっと」

「そこまでいかなくても結構痛いのは間違いない。迫力は文句無しだが」

だが、ここまで行くともはやウォータースライダーではなく絶叫マシンである。

「うっひょー!」

そこに聞き慣れた声が響く。

「士郎!退避!」

「おう!」

状況を察した二人が一斉にプールから上がる。

それと同時にセタンタとヘラクレスがプールに突入する。

二人の場合はプールサイドギリギリまで滑り込んだ。

「頭ぶつけてないよなセタンタ」

「ああ、しっかしよく滑ったな」

「ああ」

と、続いて

「ひゃああああああ!!」

「すっごぉぉぉい!」

悲鳴と歓声が交差した。

「あの声は・・・アルトリア?」

「それにアルクェイドだな」

その声と同時に純白の吸血姫と黄金の騎士王がプール目掛けて飛び込む。

「あはは〜志貴ぃ、すごいねぇこれ」

すっかりご満悦のアルクェイドがプールから立ち上がる。

「はぁ・・・シロウ、すごい速度でした」

いささかげんなりしたアルトリアも立ち上がる。

それと同時に志貴と士郎は固まった。

「「あれ?」」

二人が固まるのも無理はない。

アルトリアとアルクェイド、二人共にウォータースライダーの衝撃でビキニの上が取れてトップレス状態になっていた。

そしてそれに対する二人の反応も対象的だった。

「え?・・・!!きゃあああああああああ!!」

悲鳴をあげて蹲るアルトリアと

「あれ〜ねえねえ、志貴私の水着何処に行ったの?」

台詞だけは慌てているようだが、その口調、態度はのんびりと志貴に近寄るアルクェイド。

惨状を察したセタンタにヘラクレスは後ろを向いている。

ヘラクレスは生来からの気質ゆえに、セタンタはバゼット辺りであれば喜んで見るだろうが、それがばれた場合の惨状を身体で教え込まれたが故に。

「ア、アルトリア!少し待っていろ!・・・えーと・・・あった!」

アルトリアの惨状に慌てつつも水面にゆらゆら浮かぶ白い物を手にすると碌に確認もせずにアルトリアに手渡す。

「お前はもう少し恥じらいを持て!えっと・・・ほら早くこれつけろ」

恥らう様子の無い純白の妻を叱責しながら近くで浮かんでいたのを差し出す。

これが第二の惨劇となった。

「シロウ、すいま・・・シロウ」

謝意を表そうとしたアルトリアだったが士郎から渡されたそれを一目見るなり身体を戦慄かせる。

「??ど、どうした・・・アルトリア・・・」

アルトリアの方を見ないようにしながらも声に込められた怒気と殺気に恐怖を覚え恐る恐る尋ねる。

「これは・・・私に対するあてつけですか?」

人など軽く殺せるだろう凄みのある笑みを浮かべてアルトリアが手にしていたのは・・・アルクェイドの水着だった。

「し、しまった!!」

重いもよらぬ事態に気が動転した士郎は取り返しのつかないミスを犯してしまった。

「良くわかりました。シロウが私の体つきをどう思っているのかが」

「お、おおおおおおお落ち着いて下さいませアルトリア様、王様、陛下・・・け、決して・・・わ、わわわわわ悪気があった訳では・・・」

「問答無用です」

にっこり笑ってトップレスを忘れて士郎に制裁を加えようとしたアルトリアだったが次の瞬間身体を硬直させる。

「ねー志貴ぃ〜これきつい〜胸の小さい人用の水着だよ〜琥珀が言っていたけど、これって貧乳って言うんだよね〜」

アルクェイドの悪気も容赦もゼロの言葉の刃がアルトリアの心を深く抉る。

「ふ、ふふふふふふふ・・・」

何故かアルトリアの癖毛が彼女の頭髪の中に隠れる。

瞳もどんより澱んだような気がする。

問答無用でエクスカリバーを構えるアルトリアだったが

「わーーーーっ!アルトリアとりあえず胸は隠せ!」

士郎が高速で水着を交換して差し出す。

「えっ・・・」

士郎の言葉に暫し呆然とするアルトリアだったが、ようやく事態を悟り真っ赤にしながら慌てて水着をつける。

怒気も収まったのか癖毛が復活している。

そして照れ隠しなのか話題を変えた。

「そ、それにしても士郎よく滑りましたね」

士郎も心中を慮り、何を言わず話題にのった。

「まあな、ボディボードが無けりゃ腹か背中の皮が擦りむけていたぞ」

(水着はほどけたけど)

心の中でだけでそう呟く。

「ですがそうなると・・・凛達は・・・」

「!!!!」

士郎の血の気が引いた。

アルトリアとアルクェイドの二人だけでもこの混乱だ。

もし他の面子が滑ってきたらどうなるのか・・・

「と、止めないと」

だが全ては遅かった。

「ひゃああああああ!!」

「あははは〜速い速い!」

「次は凛と・・・」

「アルトルージュか・・・」

その言葉と同時に二人同時にプールに飛び込む。

二人とも体重が軽い為かかなりの距離を滑りようやく失速して浅いプールに沈む。

士郎は慌ててプールを探索する。

するとやはり、赤いそれはぷかぷかプールに浮いていた。

すぐさまひったくる様に拾うと立ち上がる寸前の凛に

「落ちたぞ!」

顔だけ背けてそれを差し出す。

「え?・・・きゃああああああ!!」

すごい悲鳴が響き渡った。

「し、しししし・・・士郎!!何であんたそれを」

「落ち着け!俺は落ちた水着を拾って渡しただけだ!・・・ってへぶら!」

頭に血が上った凛とそれを宥める士郎。

だが、それも叶わず、捻りも入った黄金の左フックをモロに食らい、軽く吹っ飛ぶ士郎。

だが、それも志貴の方に比べればまだましだった。

「あれ〜姉さん水着取れないんだ〜」

「それは当然でしょ。アルクちゃんの様に簡単に取れないんだから。それに淑女は旦那様以外の男がいる所じゃそうも易々と肌は見せないの。そんな事もわからないのアルクちゃん?本当こんな能天気娘が真祖の姫なんてお姉ちゃん恥ずかしいわ」

何かが引き攣る音がした・・・気がする。

「それってイリヤも言っていたわよね〜そう言えば姉さんとあの子との共通点あるよね〜」

「何よ?共通点って」

「二人とも背が低くて胸がぺったんこ〜な所!見せられない体だから、そう言って言い訳してるんじゃないの〜?」

何かがまとめて切れる音がした・・・様な気がする。

「うふふふふ・・・アルクちゃんこの頃少し調子に乗っているんじゃないかしら?忘れたの?私はいつでもアルクちゃん以上のナイスバディになれるって事を」

「一時的になったって面白くないじゃない。やっぱり年中この身体を維持しないと〜」

「「うふふふふふふふ〜」」

逃げたくなる程の殺気を撒き散らして笑顔でにらみ合う。

頭に血が上っていたはずの凛ですら、表情を引き攣らせて後ずさる。

出来れば志貴も逃げ出したかったがそうもいかず双方を宥めにかかる。

「ほら二人とも落ち着いて」

「だってさ〜志貴」

「でも志貴君」

「でももだってもない。休息日なんだから暴れない事」

「「は〜い」」

本気ではなかったのだろう、あっさりと退く二人。

「ふう・・・これで一安心・・・」

「ともいかないぞ」

そう士郎が呟くと同時に

「「きゃあああああああ!!」」

見事に悲鳴がはもって同時に飛び込んできたのは翡翠と琥珀。

「ぷはっ」

「すごかったね〜姉さん」

やはりだが、上の部分は脱げ落ちプールに浮かんでいる。

取りに行こうと志貴が動き出したが立て続けに桜とメドゥーサが、続いて秋葉とシオンと言う風に次々とプールに飛び込んでいく。

「うわ!何で立て続けに!」

「多分慣れたんだろう・・・俺達は退避しよう。ここにいたんじゃ何言われるか判ったものじゃない何が起こるか予測もつかない」

「そうだな。無用な混乱は避けるべきだろう」

「俺も賛成」

「そうするか」

士郎の退散の声にヘラクレルは何時もの様に、セタンタはやや残念そうにだが命あっての物種と渋々頷く。

志貴達四人が離れると同時にスライダーからは

『きゃあああああああああ!!』

「お嬢様!直ぐに水着を!!それとエミヤ様は見ておりませんでしょうね!お嬢様の黄金の価値と同等の肌がケダモノの視線で汚れてしまいます!」

「セラ、イリヤのここ」

「ってリーゼリット!!貴女も付けなさい!!」

「うそっ!水着は!!」

「やだっ!何処何処!!」

「あ、秋葉!さつき!こちらにあります」

ようやく上が脱げた事に気付いた女性陣の大半から悲鳴(動じなかったりしている人もいるが)や罵声、慌てふためく声が轟き更には、

「か、カレンさん!!どうしたんですか!!その格好は!」

「あら?解けてしまいましたわね」

「んなあっさりと抜かすなー!」

「カレンさっさと水着を身に付けなさい。更にその聖骸布も」

「わかっています。ところで・・・衛宮士郎はどうしました?てっきり我を忘れて襲い掛かってくるものとばかり思いましたが・・・本当意気地の無い駄犬ですね」

桜の悲鳴と凛の罵声バゼットの忠告そしてカレンの聞き捨てなら無い台詞が聞こえてきた。

「逃げて正解だったな・・・」

「ああ・・・」

志貴の苦笑いに士郎は自分の嫌な予感は正しかったのだと自分の賢明な判断に二重の意味で感謝していた。

「坊やも大変よね。何でもかんでも貴方の所為にされるんだから」

そんな混乱を他所にスライダーに上るのを遠慮していたメディアは宗一郎との二人きりの時間を思う存分満喫しながら士郎の不幸を面白そうに眺めていた。

尚、『わくわくざぶーん』グランドオープン時、件のウォータースライダーに『ビキニ着用の方はご利用をお控え下さい』と言う注意書きが書かれた看板が立てられる事になったがそれは余談である。









大波乱のウォータースライダーの混乱もようやく収まり、さらにその他のプールを次々と梯子していった志貴達は頃合と言う事で昼食としてプールサイドでバーベキューに興じていた。

「志貴焼いてばかりで食っていないだろほら」

「悪いな士郎」

そう言って更に盛られた肉や野菜が盛られた皿を志貴に差し出す士郎。

それを食べながら、和気藹々と各々それぞれに食事を取る一堂を見やる。

「良いものだなこういうのも」

「ああ、『六王権』の件とかが片付いたら定期的にこういった集まりをやるのも悪くないよな」

のんびりとこの日初めて心も身体も休ませていると実感していた二人だったが、この二人に平穏や安息と言うものは何処までもつれなくする様だった。

「ねえねえシロウ」

「志貴こんな所にいたんだ」

イリヤとアルクェイドが近寄ってくる。

「??どうしたイリヤ」

「アルクェイド、なんだ」

「ねえシロウ、シロウって水泳って上手いの?」

「志貴、士郎より泳ぐのも上だよね?」

「「は??」」









そして昼食後志貴と士郎の姿は『わくわくザブーン』に新設された競泳プールにあった。

「なあ、何で俺達ここにいるんだ?」

途方に暮れたような声で士郎が志貴に尋ねる。

「俺が知るか。そう言う事は向こうで歓声やら野次やら飛ばしている連中に言ってくれ」

一方の志貴は匙など当に投げているのかやや捨て鉢気味に呟く。

そう言う志貴の視線の先には

「志貴ちゃーんがんばれー!」

「志貴―!士郎に負けたら承知しないわよー!」

などと勝手な事を言って志貴を応援している『七夫人』達。

一方、その反対側では

「シロウ!頑張って下さい!」

「シロウ!ファイトー!」

と、こちらも勝手な事を言って士郎を応援しているアルトリア達の姿があった。

何故こんな事になったのか?

そもそもの発端はアルクェイドとイリヤの何気ない疑問にあった。

『戦闘ならば志貴の方が上だろうが運動ではどうなのだろうか?』と言う疑問を。

これにアルクェイドが即座に『そんなのは志貴が上に決まっている』と断言し、これに対抗するようにイリヤが『そんな事は無いシロウの方が運動神経では上だ』と反論した。

無論どちらも根拠の無い理屈であったが、ともかく、言い争いになり、二人は志貴達の所に駆け寄り先程の質問となったのである。

しかもこれを聞いたアルトリアが『でしたら、ここは一騎打ちをさせるのが一番いいでしょう』と話を大きくしその結果がこの状況だった。

「ご主人様ー!しっかりやりなさいよね〜!」

「・・・マスター・・・ファイト・・・」

レイはおろかレンすらも応援に力が入っている。

「どうするか・・・」

「どうするもこうするも・・・やるしかないだろう」

溜息をつく二人。

著しくやる気はしないが、負ければどうなるか想像したくない。

一応やる気を出して意識を切り替える。

「そういえば聞いていなかったけど・・・」

「距離は?どうするんだ?」

二人とも顔を見合わせる。

「適当に百メートルで良いんじゃねえか?」

そこに助け舟を出すセタンタ。

「百か・・・妥当だな」

「じゃあ百で」

頷きあう。

「セタンタ、スターターを頼む」

「あいよ」

二人とも立つ。

「始めるぜ!レディー・・・」

飛び込み姿勢を整える。

「ゴー!!」

同時に水の中に飛び込んだ。









「もうー!シロウどうしてシキに勝てなかったのよ!」

「いやそれを言われても・・・」

対決が終わった後、士郎はすっかりお冠状態のイリヤにくどくど嫌味を言われていた。

志貴対士郎の水泳対決は序盤こそ士郎がペースを上げ志貴に対してリードを奪っていたのだが、後半徐々にスピードを上げてきた志貴が追いつき、結果は同着引き分けに終わった。

志貴曰く『もし五十メートルだったら士郎に負けていた』との事であるし、士郎曰く、『志貴のスピードを上げるペースがもう少し速かったら俺は負けていた』との事である。

無論それに応援ギャラリーが納得する訳も無く、今もイリヤやカレン、レイに嫌味を言われまくっていた。

「全く最初だけしか勢いが無いというのはいかにも駄犬ですね」

「全くよこれは持久力強化の為、夜の特訓が必要ね」

「こら待てレイ。水泳と夜の特訓と何の関係がある」

「あら?判っている癖に」

一方、

「もう志貴!!どうして最後でもっとスパートかけないのよ!!」

「いや、だってな・・・軽く流す程度で十分だろ」

「それじゃ駄目よ!だから士郎に勝てなかったじゃないの!」

熱血教師よろしくアルクェイドが志貴を叱責している。

最も、ヒートアップしていたのはアルクェイドだけで他の六夫人はと言えば

「アルクちゃん別に良いじゃないの。志貴君と士郎君のお遊びのようなものなんだし」

「うんうん、でもかっこ良かったよ志貴ちゃん」

「うん。あれだけ離されていた衛宮様との差を詰めたんだから」

「はい、序盤であそこまで離されてしまった以上勝つのは難しかった。引き分けに持ち込んだだけでも十分です」

と概ね寛容であったが。

そこへ

『志貴、士郎、楽しんでおる所悪いのぉ〜』

屋内放送でコーバックの声が流される。

「??教授」

「どうしたんだ」

『すまんがそろそろお開きのい時間やけどええか?』

「えっもうそんな時間?」

「本当だ、大分時間経っているな」

大時計を見た志貴と士郎は頷くと

「じゃ、皆体拭いて着替えて入り口前に集合」

「で、その後はどうする?」

「そうだな・・・じゃあ現地解散で良いか?」

「そうしよう」

二人の提案に他の面子も概ね賛成であった。









『わくわくざぶーん』から外に出るとそこは既に夕焼けの景色だった。

「はぁ〜しっかし久しぶりだな。戦闘や修行以外で思う存分身体を動かしたのも」

一番先に出てきた士郎はゆっくりと伸びをする。

「そうだな。騒動や思わぬ事もあったがこんなに大笑いしたのも久しぶりだ」

続いて出てきた志貴がそれを首肯する。

二人は残りのメンバーが出てくるまで何をするでもなくぼけっと夕日を眺めていたが不意に志貴が呟く。

「だけど休暇も今日で終わり」

「ああ、明日からはまた『六王権』を探し出し災厄を食い止めないと」

「しっかり頼むぜ相棒」

「そっちこそ相棒」

笑って互いの手の甲を軽く叩き合う。

「また・・・来ようか。この面子で一人も欠ける事も無く」

「ああ・・・来ような」

そしてささやかなされど確かな約束が為される。

こうして未来への約束を最後にささやかな休暇は幕を閉じた。

そして、その約束が果たされるのは『蒼黒戦争』が終戦してからの事になる。

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